JABEEにおける「化学と化学関連分野」プログラム基準について
その後の動向

日本化学会 化学教育協議会
技術者教育認定制度検討WG
主査 伊藤 卓
(横浜国立大学工学部)

 日本技術者教育認定機構(JABEE)が1999年11月に発足したのに伴い、2000年度には、化学工学会が主体となってまとめた「化学および化学関連分野」の分野別プログラム基準に則って、3つの学科(コース)が認定の試行を受けた。このことに至る経緯と、これの試行に当たっては、我が国の化学産業を担う化学技術者の多様性を勘案して、その実状に適合した新たなプログラム基準を化学系31学協会が集う化学関連学協会連合協議会(学協連と略称)で今年度中に策定することが前提となっていることなどを先に本欄で紹介した(化工誌53, 831 (2000))。その目的のために西郷教授(東大院新領域)を主査として学協連の傘下に組織された化学分野教育プログラムWGでは、密度の濃い議論を重ねた結果、昨年末に新たな「化学および化学関連分野」分野別基準案策定の合意に至ることができた。
 本稿の末尾に紹介するこの基準案は、化学に関連する分野を包括的にカバーするものである。添付されている「補足説明」にも記されているように、プログラム基準として掲げる項目(教育内容)は、自然科学基礎→工学基礎→化学工学基礎→専門基礎→専門といった階層構造に対応させた統一的なものになっている。各々の項目(教育内容)については、認定のために必要とされる単位数の最低値を量的ガイドラインとして定めており、その数字を互いに若干異にする「応用化学コース」と「化学工学コース」の二つのコースで編成されているのがこの新しい分野別基準の特徴である。
 学協連参画の各学協会合意のもとに策定されたこの新しい「化学および化学関連分野」分野別基準は、本年初頭に開催された学協連理事会で承認され、直ちにJABEEに提示してその認定を仰ぐことになった。現時点で、最終的な通知は受けていないものの、これまでの経緯からこれが新しい分野別基準として認定されるのはほぼ間違いないものと思われ、これに則って、2001年度からは応用化学コースについても希望を表明する学科(コース)に対して教育プログラム認定の試行作業が始まることになる見通しである。
 学協連としてはこれを機にこれまでの化学分野教育プログラムWGを発展的に解消し、新たに本年3月から「化学技術者教育部会」(委員長:西郷教授)を発足させて、認定の試行作業に対応することとなった。化学会としても、これまでに経験したことのない新たな業務遂行を迫られることになることから、これまで化学教育協議会の傘下に設置されていた技術者教育認定制度検討WGは近いうちに解散して、新たに、運営会議に直結した常置組織として化学技術者教育委員会を発足させる方針が2月の運営会議で確認された。この新しい委員会では、JABEEへの対応だけに止まることなく、今般の補正予算との関連でにわかに急な対応を迫られることになった技術者生涯教育(CPD)システムへの化学会としての対応窓口としての機能も付与されることになる。
 このような状況の下で、各大学の化学関連学科またはコースにおいてはJABEE関連の諸認定手続きの上で、また、各企業においては技術者生涯教育遂行の上で、化学会とのこれまで以上に密接な連携が期待され、求められることになる。関係各位の一層のご理解とご協力を切にお願いする次第である。

2001.2.12記
E-mail:t-ito@ynu.ac.jp


分   野   別   基   準
化学および化学関連分野

この基準は,化学および化学に関連する分野の技術者教育プログラムに適用される。

1.教育内容
本プログラムの修了生は,以下の能力・技術を身につけている必要がある。
(1) 数学,物理学,化学,生物学など自然科学に関する基礎知識,およびそれらを問題解決に利用できる能力
(2) 工業(応用)数学,情報処理技術を含む工学基礎に関する知識,およびそれらを問題解決に利用できる能力
(3) 物質・エネルギー収支を含む化学工学量論,物理・化学平衡を含む熱力学,熱・物質・運動量の移動現象論などに関する専門基礎知識,およびそれらを問題解決に利用できる能力
(4) 有機化学,無機化学,物理化学,分析化学,高分子化学,材料化学,電気化学,光化学,界面化学,薬化学,生化学,環境化学,エネルギー化学,分離工学,反応工学,プロセスシステム工学など化学に関連する分野の内の4分野以上に関する専門基礎知識,実験技術,およびそれらを問題解決に利用できる能力
(5) 上記(4)の分野の内の1分野以上に関する専門知識,およびそれらを経済性・安全性・信頼性・社会および環境への影響を考慮しながら問題解決に利用できる応用能力,デザイン能力

2.教員
(1) 教員団は,大学設置基準に準拠していること。
(2) 教員団には,技術者の資格を有するか、またはカリキュラムに関わる実務について教える能力を有する教員を含むこと。  


補足説明

1.「化学および化学関連分野」には,化学工学コースおよび応用化学コース(仮称)の2つのコースを置き,別表の量的ガイドラインを設ける。
2.「化学および化学関連分野」としての審査を希望するときには,それぞれのコースの量的ガイドラインを参照して,希望するコースを申請する。
3.教育内容(1)〜(5)の意味するところは,各プログラムが(1)自然科学に関する基礎知識,(2)工学基礎,(3)化学工学基礎,(4)専門基礎,(5)専門の5つの階層構造に整理されている必要があることを示している。例示されている教育内容は,正に内容を意味しており,科目名を規定するものではない。従って,各プログラムは,独自性に従って科目名を決めることができるのは当然である。また,1つの科目を教育内容(1)〜(5)に割り振ることも許される。
4.教育内容(2)の「工学基礎」には,工業(応用)数学,情報処理技術の他に物質計測,電気工学,材料科学・材料力学,流体力学,環境工学,安全工学,感性工学,知的財産権,工業経済学などが考えられる。しかし,ここでの科目名は,あくまでも例示であり,各プログラムの科目名を規定するものではない。
5.教育内容(5)の「専門知識」には,講義の他に,卒業研究,セミナーなどによって修得できる専門知識を含むと考えることができる。
6.教育内容(5)の「専門知識を経済性・安全性・信頼性・社会および環境への影響を考慮しながら問題解決に利用できる応用能力,デザイン能力」は,卒業研究,セミナーなどによって修得できる能力も含むと考えることができる。
7.教育内容(5)の「デザイン能力」は,装置等の設計ばかりでなく,問題解決のための方策を総合的にデザインする能力等も含むと考えることができる。

[別表] 量的ガイドライン

教育内容 化学工学コース 応用化学コース
(1) 12単位 12単位
(2) 12単位 8単位
(3) 6単位 6単位
(4)

12単位

但し、分離工学、反応工学、プロセスシステム工学などの化学工学の内容を6単位以上含むこと

16単位
(5) 8単位 8単位
合計単位数 50単位 50単位
            

ここで規定した量的ガイドラインは minimum requirement であり,各プログラムは,その目標に合うさらに高度な教育内容を含めて,質の高い化学技術者の教育を目指すべきである。
                    

以上