(2012.5.25 掲載)

日本化学会ロゴ

会長に就任して:転換期における化学者と化学会の役割



Kohei Tamao
玉尾皓平
日本化学会会長

  (独)理化学研究所 基幹研究所所長
 




 昨年3月に公益社団法人日本化学会となって初めての会長選挙で選ばれ,本年5月24日の社員総会と理事会で承認され,会長に就任いたしました。微力ながら全力を尽くしたいと思いますので,よろしくお願い申し上げます。
 会長選挙の時に掲げた抱負「化学が率いる持続社会 Chemistry-driven sustainable society」という理念を日本化学会会員と共有したいと思います.私たちは大きな転換期に直面しています.70億人を越えた世界の人口増と対照的なわが国の人口減少・少子高齢化、GDPや論文数で日本を抜き去った中国を筆頭とする新興国の台頭、科学技術政策の戦略分野型から課題解決イノベーション創出型研究への転換など、その規模・レベル・分野を問わず、取り巻く状況は大きく変化しています。このような変化をしっかりと認識した上で、資源、エネルギー、環境、医療・健康、情報通信、自然災害への対応など、人類共通の解決すべき大きな課題に取り組んでいかなければなりません。特にわが国では、復興に向けて、科学技術力、教育力、産業競争力の一層の強化発展が重要な課題となっています。持続社会の構築に向けたこれらの課題の解決には、広範な学術的基盤に支えられた最先端科学の発展が不可欠であることは言うまでもないことです。上記理念は、化学がその中心的役割を担い先導するのだという、化学者そして化学会からの宣言なのです。
 この先導役としての化学者に対する社会からの期待は当然大きくなっていきますが、責任の重さも忘れてはなりません。1999年の世界科学会議ブダペスト宣言の中の科学を化学者に読み替えると、「科学のための化学者」「社会のための化学者」「社会における化学者」となります。化学者と化学会が担うべき社会での役割と責任が端的に表現されています。
 最近10年間ほどの歴代会長の下で実行されてきた多くの取り組みはこのような考えに沿ったものであり、基本的にはその路線を尊重しつつも、次の5重点課題を掲げ、2年間の任期中に具体策を実行に移したいと考えています。
    (1)研究・教育活動と振興と成果発信力の強化
    (2)産学官の連携の促進と人材育成
    (3)国際連携の促進と存在感・発信力の向上
    (4)アウトリーチ活動や政策提言
    (5)事務局との協働体制の強化

 これらは決して目新しいものではありませんが、たとえば、国際論文誌の編集・販売体制の抜本的見直しによる国際発信力強化、産業界とも歩調を合わせた次世代人材育成やアウトリーチ活動、欧米の化学会などとの連携協定による国際的発進力向上策、などの具体的な活動を通じて、化学会の更なる活性化を目指したいと思います。これらの活動が会員増強にもつながるものと確信しています。他の具体的活動などはHPの活用も含めて機会あるごとに示してまいります。
 筆者は日頃、若い学生や研究者には、論文1報よりも100人の友を、と異分野交流を勧めています。将来の持続社会構築を率いる化学者達の活力の源だと信じるからです。このためにも、日本化学会は産学官それぞれの立ち位置を尊重しながら協調し、ダイナミックに活動できる場、人的交流の場でなければなりません。
 全会員が化学者としての自信と誇りをもって、持続社会構築のために共に力を注いで行こうではありませんか。会員の皆さん方のご理解とご協力をお願い申し上げます。


公益社団法人 日本化学会
〒101-8307 東京都千代田区神田駿河台1-5
Tel: 03-3292-6161
Fax: 03-3292-6318
「日本化学会」に戻る



Copyright(C); 2012, The Chemical Society of Japan